2026年6月12日無料公開記事未来を探せ70の視点 未来を探せ

海事プレス社創立70周年特別企画【未来を探せ~70の視点】
海事産業の未来は“人々”がつなぐ
♯16 エクセノヤマミズ 増田尚昭社長

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「海運は“価値創出産業”」と語る

 シップブローカー大手エクセノヤマミズの増田尚昭社長は、日本の海事産業を未来に向けて維持・発展させていくために「人と人の有機的なつながりが重要」と述べ、事業環境の変化や技術が進展する中でも「信頼できる、する人々の場がつながれていくことが大切」と訴えた。海事産業は分業化が進んだ産業との認識を示したうえで「海事クラスター全体の強さの前提は、分業化された各事業分野が強いことだ。どこか粒が弱れば、全体が崩れてしまう」と語った。

■海運は“価値創出産業”

 ― 日本の海運業、海事産業の中長期的な課題は。
 「結論から言えば、“人”だと思う。ただし、単に“人”ではなく、有機的なつながりを意識して“人々”と申し上げたい。デジタル技術が進展しても、最終的にそれを動かすのは人だ。ある方から『デジタルは人と人を結び付ける技術です』という話を聞いて腑に落ちたことがある。10年後、20年後を考えても、海事産業は日本や世界にとって重要な産業であり、人々がつなぎ、紡いでいく産業であり続けるだろう」
 「海が当たり前に在る日本で海事産業の重要性に対する一般の認知は、最近は見直されていると信じるが、十分だろうか。造船所のある地域でさえ、進水式を見たことがない大人や子どもたちが多くいるという現実がある。進水式は非常に感動的な瞬間だ。船名を付ける“命名”は、文字通り命を吹き込む儀式であり、一種の人格を与える特別な意味を持つ。船は単なる機械ではなく、船主、造船所、舶用機器メーカー、用船者、荷主、金融機関などなど、多くの人々の思いが込められた存在だ。式典参加者は何らかの一代表に過ぎず、その背後には多くの関係者がいる。海事産業とは船を通じての“人々の産業”ではないだろうか」
 「輸送の価値は、過小評価されがちだ。輸送業は付加価値が低い、高度ではない仕事だといった見方もあるが、それは誤っている。物は、それを必要とする場所に運ばれて初めて価値を持つ。つまり、“運ぶ”という行為そのものが価値を生み出しているのであり、海運はまさに“価値創出産業”だ」
 「単に港と港を結ぶ意味のトランスポートより、“ロジスティクス”という言葉が好きだ。兵站を意味し、単なる輸送以上の意味を持つ。元来軍を動かす意味の“運”に近い。国の根幹に関わることであり、重要なものだということが分かる。運輸省から国土交通省になったときに“運”の字が無くなったのは惜しいとおもう。皮肉なことに、輸送サービスが便利になればなるほど、その意識は薄れていく」
 「日本においては“海”そのものへの認識も重要だ。2500万年前に日本海が生まれて日本は海に囲まれ、その恩恵と条件によって風土、衣食住、文化、価値観が創られてきた。内陸国のような隣国と国境を接することのない日本にとり、海の存在は当たり前だが、実は海はインフラ(土台)そのもの。海事産業に関わる者は、海への感謝を強くすべきと思う」
 「さらに申せば、現在の日本の海運業は、先の大戦での大きな犠牲と壊滅から先輩方が築き上げてきたものだ。今はその成果の上に載せていただき、それを次の世代につないでいく責務があると思う。世代を超えた“人々”のつながりを大切にしなければならない」

■海事クラスター各事業を強く

 ― 造船業などを含む日本の海事クラスター全体の競争力強化のために必要なことは。
 「海運はさまざまな他の産業を生み出した一方で、分業化が恐ろしく進んだ古くからの産業だ。1つの例だが、かつては船舶の保有・運航もまた商取引も一体だったのが、荷主、運航者、船主と分かれ、現在では船舶管理や船舶代理店など、さらに細分化されている。今後はデジタルの利用により、個々の事業間の情報統合が進むと思う。ただし、それは形式的な統合ではなく、意味のある連携でなければならない」
 「“海事クラスター”という言葉が好んで使われるが、クラスターの本来の意味である“ぶどうの房”の粒1つ1つの要素がしっかりしていなければ、全体がしぼんでしまう。クラスター全体の強さの前提は、分業化された各事業分野が強いことだ。どこか粒が弱れば、全体が崩れてしまう。クラスターならぬ、“グラグラ、ズタズタ”である。日本は海事産業の各事業要素が比較的しっかり残っている点が強みであり、自らの事業だけでなくフェンスの向こうにも目を向けて、これらを維持できればと思う」
 「日本の海事クラスターは基本的に必要な要素を全て持っているが、あえて足りないものを挙げるなら、英語、法務、解撤だ」
 「海運というと時に外航中心で語られがちだが、実際には内航や河川輸送も含めた水運である。江戸時代を思い出してほしい。現状ではそれぞれが分断されているようにも思う。国は高速道路に多額のお金を使う。高速道路建設は1kmに50億円かかる。海事、海洋に対しての国の大注目を大歓迎したい。歴史的に見ても、欧州や中国の発展は水運によるところ大であったのは明白である」
 「海事産業の領域は、宇宙ロケット(空)、海面、海中、海底と無限に広がる可能性を持っている。従来の“海運”という枠にとどまらない広がりも重要になるし、これらは特にこれからの世代への魅力となるであろう」
 ― 日本の海運・造船政策の課題は。
 「外航日本籍船の問題は、突き詰めれば安全保障の問題だ。震災時に日本に船が来ないという事態は現実に起こり得る。2011.3.11の時を思い出してほしい。どれだけの外国籍船が日本への寄港を拒否したか。しかし現状では日本籍船の数は少なく、経済安全保障上、十分かどうか疑問が残る。経済合理性と制度の問題を解決していかないと、脆弱を引きずることとなる。一方で、将来的には他国が自国建造船や自国籍船以外を排除する措置を取る可能性もあり、起こり得るリスクとして考えるべきだ」
 「日本の造船復興政策については、総論としては評価できるが、課題も多い。外航だけでなく、内航、修繕と海事産業全体を俯瞰し、日本に必要な分野に目を向けるべきだ。造船所の設計人材不足も深刻で、特殊船やフェリーなどの一点物の建造を担う能力が失われつつある。修繕もあまりに縮小してしまった。内航船が国内で建造できなくなり、リプレースに支障が出て海外依存となれば、日本は外航と同様のリスクを抱えることになる。ここらは造船所が立地する地方をどうするのかという問題と密接であり、魅力ある地方づくりも大事となり、多くの方々が苦労されている」

■信頼が絶対条件

 ― 海事産業に求められる人材像は。
 「大量の荷物を運ぶ割には隻数も少なく、海事産業は狭い世界で、お互いをよく知り合う場ではないだろうか。だからこそ、信頼が極めて重要になる。おのずから、顔の見える関係の中で取引が行われるのが特徴で、実際、高額な取引でも電話一本で決まることがある。それが成り立つのは相手への信頼があるからで、信頼がなければ取引自体が成立しない。価格競争だけではなく、相手が誰かが極めて重要だからだ。従って、業界が求める人材として最も重要なのは、信頼ではないだろうか。これは絶対条件と思う」
 「近年のコミュニケーションはタダで、形式も多様だ。人々の関係性が希薄になっている面もある。便利さの裏で、失われているものがないだろうか。狭い世界であればこそ、個々の影響も大きい。新しいもの、技術、コンセプト、挑戦、そして人が入れ替わる中でも、信頼できる、する人々の場がつながれていくことが大切であると思う」
(聞き手:深澤義仁)

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